これで羽田空港展望デッキが10倍楽しくなる!?羽田の気象観測

この記事は東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2020の3日目の記事として書かれています。

adventar.org

 

こんにちは!B3のナオトと申します。
突然ですが皆さんは航空と宇宙、どちらにより魅力を感じますか?僕は小さいころから宇宙、特に宇宙開発に興味があってこの学科に入ったクチで、正直航空にはあまり興味がありませんでした。飛行機乗るときはテンション上がるし空港の近未来感は好きだけど、それ以上特に思うところはない、みたいな感じ。しかしこの学科に進学して飛行機好きの友人と話すにつれ、次第に航空関係にも関心を持つようになり、面白いと感じようになりました。例えば今年の春、コロナがもうすぐ猛威を振るい始めようかというギリギリの頃、学科の友人に連れられて(B君、T君ありがとう!)羽田空港の展望デッキを初めて訪れたのですが、次々に発着する航空機を眺め、あれはおそらく○○という機体だなんて話を聞いたり、おっ風向きが変わったらしい今度は向こうから降りてくるぞなんて言ってデッキを駆け回るのは中々に楽しかったのです。
時は移り11月、昨年存在を知り刺激を受けたAdvent Calenderに是非参加してみたいなぁとネタを探していたところ、この展望デッキの記憶が蘇りました。先日、気象予報士の資格を取得したこともあり気象や気候関連にしようとは考えており、それを宇宙と絡めて気象観測衛星や惑星気象の話にしようかとも思いました。ただ今回は羽田空港(東京国際空港)周りについて色々調べてみたいという気持ちが勝ったので、羽田周辺の気象観測について、ちょいちょい脱線しつつ書いていこうと思います。ちなみに羽田空港展望デッキが10倍楽しくなるとかタイトルに書きましたが、僕はまだ今春の一回しか行ったことないです。誰か今度一緒に行こ~!

 

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今春、羽田にて。当時は「嵐JETだ~」止まりでしたが、昨日のぐっ✈さんの記事のおかげで6代目の20th ARASHI THANKS JETというバージョンだと知りました。個人的に、特に翔君はモノクロと相性が良いなと思ってます。

 

 

 

羽田空港における気象観測

そもそも気象観測は、国土交通省の外局たる気象庁の管轄となっています。気象庁は現在、新庁舎への引っ越しの真っ只中で、それに伴う改組でこの組織図にもいくつかの変更がありました。中でも、地震予知情報課が姿を消したのは興味深いですね。地震の高い確度での予知は難しいと分かってきたからなんだとか。起きた後の防災対応がより重要になりそうです。

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(左)気象庁組織図(再編前 一部抜粋)[1]  (右)気象庁組織図(再編後)[2]

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先日訪れた気象庁 大手町庁舎

すでに多くの機能が虎ノ門庁舎に移されています

今回取り上げる羽田空港は、東京管区気象台の管轄下にある東京航空地方気象台が観測を担当しており、一般的な観測に加え、空港特有の観測も行っています。例えば空港気象ドップラーライダードップラーレーダーは発射した電磁波がエーロゾルや雨粒から反射するのを観測し、ドップラー効果を用いて風の分布を調べ、ダウンバーストやシアーラインの発見に役立てています。ダウンバーストというのは、積乱雲下で激しい下降気流が発生し、地表付近で水平に発散する現象です。通常、発達している対流性の雲(積乱雲とか)のもとでは上昇気流が卓越しますが、降雨を伴うと次第に空気が引きずり降ろされて下降気流となります。瞬間風速は50~75m/sに達することもあるそうですから、離着陸する航空機にとって脅威であることは想像に難くありません。シアーラインは風のベクトルが大きく変化しているところを結んだ線を言い、積乱雲から吹き出す風と、それとは違う向きの風がぶつかって上昇気流が生じているところ等が該当します。近年よく耳にする線状降水帯もこういったメカニズムが原因のようです。シアーという言葉は変化率といった意味で、この地点は風の鉛直シアーが大きい(つまり、低層と高層で風が大きく異なる)、みたいな使い方をします。

また、その地点における風向風速といったどこでも測ってそうなデータについても通常の観測が10分間の平均値をとっているのに対し、離着陸のための通報用として2分間の平均値のデータもとっています。

展望デッキからは小さい測器は見えないかもしれませんが、レーダードームなんかは見えると思うので、見つけたら是非、あの機器たちが空の安全に一役買ってくれてるんだなぁと思いを馳せてみてください。

 

気象情報の提供・解説

 東京航空地方気象台は観測をするだけでなく、それを他の官署のものと総合し気象情報としてしかるべきところに発信しています。パイロットや管制官、運行管理者に対しては気象解説という形で様々な資料を用いて日々解説を行っており、管制官はその情報をもとに飛行ルートを決定しています。また、航空気象情報提供システム(MetAir)というものを通じて、様々な情報を提供しているそうです。

気象解説情報

上記の気象解説やMetAirは基本的に事業者向けのようですが、一般に公開されている気象情報として飛行場気象解説情報があります。1日2回発表の定時情報と、運行に重大な影響を与える現象に対し随時発表する臨時情報があり、以下に示したのは2020年12月1日16時発表の定時情報です。

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東京国際空港 気象解説情報(2020年12月1日16:00)[2]

 少し補足すると、時系列予想のCross/Tailは滑走路に対して垂直/平行方向の風速、Ceilingは雲底高度を表していて、警戒すべき数値については色付きで強調されています。

また、コメントにあるVMCは有視界気象状態(Visual Meteorological Condition)のことで、パイロットが目視で、自分の判断で飛行できる状態のことを言うそうです。

天気概況にある東海道沖および山陰沖のシアーラインというのは等圧線がポコッと出っ張っている部分に対応すると考えられます。この部分は周囲より気圧が低い「気圧の谷」となっており、気圧の谷はしばしばシアーラインと対応するからです。少し話は逸れますが、実際にシアーラインや低気圧が観測されたのか、その後の実況を確認してみましょう。

まず低気圧の方は、実況の地上天気図を確認すると気圧の谷から切り離され低気圧となっていることがばっちりわかります。

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日本周辺域地上天気図(2020年12月2日21:00)[2]

次にシアーラインについて。アメダスは陸上にしかなく、海上のデータは船舶からの通報等かなり限定される上に地表面の影響を受けているため、地上の風のデータから海上のシアーラインを確認するのは難しいと考え、今回はもう少し上空のデータを参照します。こういうときに使えるネット上に無料で公開されているものとして、850hPaの等圧面上のデータが書き入れられた天気図があります。早速12月2日午前9時のものを見てみると・・・

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極東850hPa気温・風天気図(2020年12月2日9:00)[2]

うーん。。。

少し見づらいですが、画像中央右寄りに日本列島があります。そして東海道沖の丸で囲った二つの矢羽根に注目すればその間にシアーラインがある気がする・・・。地点の数的に粗くなってしまうのか、あまりはっきりとは分かりません。というわけで実況データから見るのは諦めて、格子点解析された数値予報の結果から見てみます。

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日本850hPa相当温位・風12時間予想図(2020年12月2日9:00)[2]

2日の午前9時に出た午後9時についての予報なので、気圧の谷がいくらか東に進んでいますが、確かに少なくとも日本海上ではシアーライン、つまりこの線を境に風向もしくは風速が大きく変化しているところ、が確認できます。ちなみにこの風を示す記号(矢羽根)は羽根の無い方、つまり根元部分がその風が吹いている地点に一致しています。

METARとTAF

 よりリアルタイムな情報として、METARとTAFがあります。前者が飛行場実況気象という実際の観測データで、後者が飛行場予報という予報です。これらは世界的に共通の通報式で、下記のようなサイトでは世界中の空港のリアルタイムなデータが見られます。

www.time-j.net

 

この他にも様々な情報が日夜更新され、役立てられているのです。そしてこの手のデータは、観測、解析技術の発達やニーズの変化に合わせて、発表される形式が目まぐるしく変わります。どういったタイミングでどう変わったか、なぜ変わったのかを色々調べてみるとそれも面白いです!

 

今年からの新ルート

羽田空港といえば、今年の3月末から運用が始まった新ルートが記憶に新しいですね。今まで飛行が避けられていた都心の比較的低空も、風向きによっては多くの旅客機が通過するようになりました。騒音等で賛否両論もあるそうですが、個人的には家の近くからしょっちゅう飛行機を見ることができるようになって嬉しい気持ちが強いです。

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滑走路運用・飛行経路の見直し[3]

(左)南風運用時 (右)北風運用時

羽田に限らず、空港での風向きをもとに使う滑走路やその向きを使い分け、ルートもそれに応じて変更するということがよく行われています。先ほど述べたような気象庁側からの情報提供や解説を受けて、航空局が総合的に判断して決めているそうで、最も速度が遅い離着陸時に追い風を受けると失速しちゃう可能性があるので、基本的に滑走路付近で追い風とならないようなルート取りがなされます。今回の変更は4本ある滑走路をより効率的に活用して発着可能数を増やすためのもので、特に南風ルートの運用時に都心上空の交通量が増えるようです。

観測の点からいえば、変更に伴い今まで使わなかった向きで使われる滑走路があるため、それに応じた測器の拡充が行われたそうです。

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航空気象観測機器の配置図[4]

A、C滑走路に一つずつ追加されたシーロメーターは真上の雲底高度を測るための機器で、雲底が低すぎると着陸が困難となることから重要です。一般的な観測でも目視で確認したり、高度ごとの気温と露点温度といった各種データから周囲のおおよその雲底を推定したりことはできますが、わざわざ専用の測器を使うのは航空気象特有と言えると思います。

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シーロメーター[4]

ちなみに、上の図に登場する「16L」、「04」といった表記は、滑走路番号とよばれるものだそうで、航空ファンの方々的にはお馴染みなのかもですが僕は先日初めて知りました。詳しくはWikipediaの滑走路のページをご覧ください。

滑走路 - Wikipedia

上述の気象解説情報のWindの項にある「RWY34」や「RWY23」もこれです。 

 

終わりに

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!色んな方向に脱線しちゃいましたが、羽田の気象観測について書いてきました。「へ~」と思ってもらえる所が少しでもあったら嬉しいです。できるだけ正確に書いたつもりですが、内容の間違い等あったらごめんなさい。見つけたら是非教えていただけるとありがたいです。それでは!

 

参考文献

[1] 気象庁の組織等, 気象庁 

https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/jma-guidebook/chapter9.pdf

[2] 気象庁HP https://www.jma.go.jp/jma/index.html

[3] 羽田空港における滑走路運用・飛行経路の見直し, 国土交通省 

https://www.mlit.go.jp/common/001302400.pdf

[4] 羽田空港WEATHER TOPICS 第75号, 東京航空地方気象台 

https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20180731.pdf

[5] 気象庁 航空気象管理官 航空気象ノート 第73号 気象業務支援センター, 2012

[6] 小倉義光 一般気象学 第2版補訂版 東京大学出版会, 2016 

 

※[1]-[4]全て最終アクセス日は2020年12月3日